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雨かまきり(今川×光秀)

視界が霞むほどの雨が降る。泥が跳ね上がり、空気との境目さえ分からなくなる。

赤だけがはっきりと、そんな景色の中で踊っていた。

夥しい血の、赤だ。

「ククク……また外れでしたか」

突き刺さった鎌は、引き抜いたそばから大雨で洗われていく。

「これではどれが本物の今川義元かどころか、敵と味方の区別もし難いですね」

光秀は溢れかえる人波を斬り開きながら進んだ。その先に走る輿を、鈍く輝く刃の上に捕らえて――

織田軍の猛攻は激しい。そんな中でもまだ己は見つかっていないという事実が、義元に妙な安堵感を与えていた。

「ぷぷぷ……織田も大したことないでおじゃ、まんまと偽物ばかり掴まされておる」

降りしきる雨音にかき消され戦の声が遥か遠くに聞こえるのも、義元にとっては自分の身が安全な場所にあることの証明である。

「このまま上手いこと逃げ帰るでおじゃ。他のまろもまろに続くでおじゃるよ!」

だが、そう義元が外の味方を確認した時、周りには既に他の輿は走ってはいなかった。

どうりで静かなはずである。

「なな、なにかの間違いおじゃ」

一度顔を引っ込め、今度は反対側の様子を見る。

「おじゃ……」

もう一度左を見た。

諦めきれず右側も再度確認するも、そこには義元の乗る輿以外、泥濘んだ地面しか見つけることができない。

「ひえー!なにごとでおじゃ!」

頭を抱えると同時に、輿が大きく傾く。

「ままま、まろが暴れすぎたでおじゃるか!早く体勢を立て直すでおじゃ。まっすぐ!まっすぐ!」

その言葉を受けるかのように、輿はずしんと大きく揺れ、地面に落ちて止まった。

「お望み通り真っ直ぐにして差し上げましたよ……ククク」

「違う!こうまっすぐじゃないおじゃ、早く元通り持ち上げて進むでおじゃ」

「それは難しいご相談ですね」

「おじゃ?」

誰か、と聞くよりも先に、義元の足元に白刃が突き刺さる。

「ほげー!何でおじゃ、何でおじゃ!」

輿の内部と外部との隔たりが無くなった。大粒の雨が、義元の頬を打つ。

ぬらりと光る刃の先を目で追えば、それと同じ色の輝きを放つ長髪を靡かせた男が一人、口の端をひしゃげて笑っていた。

「やっと本物にお目にかかれましたか」

「だ、誰でおじゃ」

「お初にお目にかかります、今川殿。私は明智光秀。貴方を追う織田の筆頭家臣です」

「お……だ…………?」

「織田です」

「織田……」

銀糸の髪を雨が伝い、微かに上気した白い頬を濡らしている。

この世のものとは思えない作り物のような容姿の男に見下ろされたまま、義元は、澄んだ低音の伝えた織田という言葉を反芻した。

「おじゃああああああ!」

漸く事態を察し、叫び声をあげて逃げ出そうとする義元。しかしその裾は、光秀の振るった白刃により地べたへと縫いつけられている。

「おやおや。どちらに行かれるおつもりですか」

「にににに、逃げるに決まっているでおじゃろう!」

「かわいそうに……そんなことはもう叶いませんよ?」

「いい、嫌でおじゃ!まだ死にたくないでおじゃ!」

「それは困りましたね」

「困っているのはまろの方でおじゃ!」

義元がどんなに暴れようと、光秀の鎌は義元を決して離さない。

「ククク……まるで捕らえられた蛙ですね。死ぬのは決まりきっているというのに、なけなしの生にすがる」

「やめてたもれ!やめてたもれ!痛いのは嫌でおじゃ!」

「なるほど」

義元の言葉に、光秀はぐいっと顔を近づけた。

「では痛くなければ良いのですね」

「おじゃ……?」

「良いことを思いつきました」

不思議そうな顔で、義元は光秀を見上げる。

「何を言っているでおじゃるか?」

「もしかしたらやっぱり痛いかもしれませんが……物は試しです」

義元の着物に突き刺した鎌から、光秀が手を離した。助かるかもしれないという淡い期待に義元の表情が少し和らぐ。

しかし、光秀が次に取った行動は義元のどの予想とも大きく違っていた。

さわり。

「な、ななな、ななにをするでおじゃるー!」

雨ざらしになった体は冷たい。しかしそれよりも更に低い体温が、義元の股間に触れる。ひんやりと湿った布越しに伝わる柔らかな手の感触。

擦られる。揉みしだかれる。真っ白になった頭の中に雨音だけが砂嵐のように煩い。

「気持ちいいことをしてさしあげましょう」

光秀の舌が、義元の首筋を這う。

「い、意味が分からぬ!お主はおかしいでおじゃ!」

尚も抵抗する義元であったが光秀の鎌が依然着物に刺さっているため精々手をバタつかせることしかできない。

「大人しくしていなさい。少しでも痛い目に遭いたくなければね」

「は、はぅ……っ」

「ククク……嫌だ嫌だと言いながらもしっかり感じてきているではありませんか」

「助けて……たも」

「安心してください。私、こう見えて結構上手ですから」

いつの間にか侵入した光秀の手が、震えながら涙を流す義元の性器を直に擦りあげる。滑らかな皮膚の感触と指使い。

脱がされ、口に含まれ、義元は小さな悲鳴をあげる。

義元のものを喉奥まで咥えながら、光秀は自身の着物を寛げはじめた。紐をほどかれた袴がばさりと落ちる。

「ん……くぅ…は……っ」

光秀の婬猥な吐息が雨に混じる。

「そろそろ……頃合いでしょうか」

義元の体を押し倒し、光秀はその上に跨がった。

覚悟を決めた義元が目を閉じる。

ずぶ。

「ああ……っ、ん」

「どういうことで……おじゃる」

義元は、自分の体に起こったことが理解できなかった。

硬くそそり勃ったものが、光秀の中に飲み込まれている。

「私が動きますから、貴方はそのまま呆けていれば良い。ただ快楽に身を任せてね」

雨の伝う白い肌が艶かしい。はだけられた着物から微かに漂う血の香り。水の音。光秀が、義元の上で腰を振っている。

「あぁ、気持ち良い……」

義元は呆然としていた。だが意識がどんなについてこられなくとも、光秀に包み込まれた義元の昂りは、絡みつく肉壁の中でびちびちと踊り狂っている。

「ふふ……私のここ、気持ち良いでしょう。私が気持ちよくなればなるほど貴方ももっと気持ちよくなれる…っああ」

「ま、まろを……」

限界まで引き抜いて、再び奥まで導かれる。ひんやりとした肌からは想像もつかないほど光秀の中は熱い。うねりながら、義元を快楽の園へと堕としていく。

先程まで義元にとって死神だった男。その蛇を思わせる瞳は、獲物を前に鋭い光を放っていた。それが今は遊女のように妖しく細められ、義元の雄を擽っている。

「おやおや。貴方も動きたいのですか?」

誘惑の吐息と共に耳を犯す光秀の声の、なんと甘いことだろう。脳を直に揺さぶられ、現実も理性もこの場には必要がないものなのだと、義元は理解などではなく本能で悟った。

「ま……」

「ククク……どうしました?」

光秀が淫らに嗤う。濡れた髪が、挑発的に頬にはりつく。

義元は、光秀の肩を掴んだ。

「ま、まろを本気にさせるとは良い度胸でおじゃ!」

楔を中に穿ったまま、泥濘んだ土の上に光秀を押し倒した。

「だいたい、これはまろのおちんちんでおじゃる!何ゆえ好き勝手されねばならぬ!」

義元は欲望のままに腰を振った。破れて乱れた着物が泥にまみれ、雨で染まって斑になる。ぶつかり合う皮膚と皮膚の間で、体液の混ざった雨粒が爆ぜる。

ぐちょぐちょと地面が歪む度に、光秀が嬌声をあげた。

「ああ……!背中が痛いっ」

「何が痛いでおじゃるか!そちのここは大いに悦んでおるぞよ。まろの方こそ締め付けられて痛いくらいぞ」

光秀の媚肉は義元の肉棒に強く絡みついていた。まるでそこだけが別の意志を持った生き物のように蠕き、更なる熱を貪欲に求めている。

「あ…ぁ……っ思ったより……ああ、ん…っ」

「ほほ、とんだ好き者よのう」

降りしきる雨も跳ねる泥も構わずに、義元は抽挿を繰り返す。

「あ…っん、そこ……」

「ここか?ここが良いのでおじゃろう?」

「っ……よくあれだけの行為で、お分かりになりましたね…あ、あぁ!」

「賢いまろを見くびってもらっては困るぞよ」

光秀の身体が弓のようにしなる。その度に激しく蠕動する内部が、もっともっとと義元に弱点をさらけ出していく。

「あぁ…そうです。もっと気持ち良く……もっともっと私に快楽を!そうすれば、貴方ももっと気持ち良くなれる!」

「言われなくとも、そうしてやるでおじゃる!」

既に戦の喧騒は遥か遠い。

最早、本当に戦をしていたかどうかさえ分からない。

水気のある音ばかりが義元の意識を埋め尽くし、全身が光秀に囚えられているかのような快感。義元は今や、蛇の猛毒で痺れ巻き付かれ飲み込まれていく蛙だ。

「ふ……ぁ、そろそろ…でしょうか」

丸呑みにした熱棒が自身の熱さに堪えきれなくなる瞬間を、光秀は敏感に感じ取った。

「あ、あ、出る!出すでおじゃる!」

「そう…そうです!その欲望のまま……貴方の熱が求めるままに貫くのです!」

「お、おおお……おじゃあ!」

瞬間、義元の目に閃光が見えた。

光秀が、白刃を振るっていた。

「な、なにごとか……あら…るれ」

絶頂の正にその時。光秀の中で白濁を放つと同時に、義元の首は胴体から飛んだ。

雨の流れに逆らうように赤い柱が何本もぴゅうぴゅうと噴き出している。

「ほら。痛くなかったでしょう」

何が起こったのか分からないといった顔のまま、義元はぼんやりと光秀を見ていた。光秀に跨っていた身体がゆっくりと後ろに傾き、少し硬さを失った男根がずるりと抜けていく。

「私が気持ちよかったのですから、貴方もさぞや気持ちよかった筈ですよ」

溢れるそばから雨と泥に混ざって薄まる義元の体液を見つめながら、光秀は自身の熱に手を伸ばした。

そこはまだ、興奮の余韻に脈打っている。

「さて」

汚れた着物を整えて、光秀は義元の首を拾った。

「私は、信長公にご褒美を頂くとしましょう」

陣に戻る頃には血と泥に塗れた光秀と義元も、信長に拝謁するに相応しく綺麗になっているだろう。昂ぶりも性の臭いも、この雨が洗い流してくれる。

「ああ……早く会いたい、信長公」

歩を進めるほどに戦の音が聞こえてくる。

「かわいそうに。貴方が死んだことも知らずに、まだ頑張っている方々が大勢いるみたいですよ」

光秀の頬は上気した。

「頑張っているのですから、ご褒美をあげないといけませんね」

すっかり赤みを失った義元の首を片手に、光秀は戦場へと躍り出た。

雨が霞む激しい血飛沫で、信長の勝利を赤く彩るために。


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